top270名の作成例ご依頼方法価格のご案内店舗紹介無料見積り・問合せ
服飾研究家白鳥博康氏の男のきもの研究手帳
第8回 夏の着物

「着物は夏涼しい」
というけれど、昨今の猛烈な暑さでは、何を着ていても、さして変わらないのかもしれない。
だが、やはり洋服に比べて涼しいと思えるのは、首回りをネクタイで締めつけられる必要がないことと、日本の履物が開放的にできているからだ。
私の着物生活のきっかけに「靴を履きたくない」ことがあると以前にも書いた。
(参照:第1回 「365日着物生活のきっかけ」)
高温多湿な日本の風土において、西洋的な靴が発達しなかったことは、偶然ではないだろう。


私は、どちらかといえば暑がりで、しかも汗っかきだ。
夏には、かなりの汗をかく。
だから、なるべく快適でいられるように着るものを工夫する。

その一つが、クレープ生地の筒袖半襦袢(もちろん半衿がついている)だ。
これを素肌に着ると肌着一枚分省略できるので、着るものを一枚でも少なくしたい夏には、もってこいの襦袢といえる。
この便利なクレープ襦袢は季節の半衿に付け替えることで、気温が高くなる春から、残暑厳しい秋にかけて、かなり長い期間着用することができる。
思いのほか暑さの続く現代生活に適した襦袢だと思う。

この襦袢、以前は日本橋三越の呉服売り場で「クレープ肌襦袢の襟を広くしたものが欲しい」と注文していた。
今はどうか知らないが、当時は三越オリジナルの既製半襦袢・肌襦袢があり、こちらの希望を伝えると、サイズや仕様の微調整(襦袢丈を長くしてほしいなど)までしてくれた。
しかも、値段はほとんど変わらなかったように記憶している。
最近引越しをして、三越まで行くのが億劫になってしまったこともあり、インターネットの法衣店で、同じようなものを探してきて着用している。

暑い時期の帯も悩みのタネだ。
そもそも、着物が暑いと思われている原因に、帯があると思う。
着流しや羽織を着る程度なら、帯についてそこまで気にならないけれど、袴をつけると、少し気になる。
特に私は、人と会う場合、外出する時など必ず袴を着けているので、なおさら気になる。
帯を夏物にすれば涼しくなるかと試してみたが、あまり変わらなかった。

そこで苦肉の策として、袴下に兵児帯を締めてみたところ、とても具合がよかった。
兵児帯は角帯よりも柔らかく、生地も薄手なので、夏の袴下用帯として丁度いいようだ。
袴下の兵児帯は、総絞りなどの上等なものでないほうがいい。
端絞りのもので十分間に合う。
帯は洗わないもの、とされているようだが、汗をかいた兵児帯は洗ってしまうことにしている。
洗濯機で洗うと縮むような気がしたけれど、実際やってみれば何ということはなかった。
むしろ、洗う前よりも体に馴染むような印象を受ける。
ちなみに、汗をかいた木綿の角帯も洗ってみたところ、少々クタッとするものの、問題はなかった(少なくとも私にとっては)。

夏の着物について尋ねられた時「絹の夏物は一枚しか持っていない」と答えると、ほとんどの人は驚く。
正確には、「絹の夏物の長着」なのだが、とにかく一枚しか持っていない。
それも絽の黒紋付だから着る機会などほとんどないし、着たこともないので仕付糸はついたままとなっている。
それでは、私が夏場に絹物はまったく着ないかというと、そういうわけでもない。
現に羽織や袴の絹物は数枚持っている。
一枚しか持っていない絽の長着は、絽の黒紋付羽織を誂えるついでに、つくっておいたものだ。


絹の夏物(長着)を持たない理由は、汗をかくと手入れが面倒だということに尽きる。
あまり汗をかかない人ならばいいだろうけれど、背中や衿の色が変わってしまうほど(特に薄色の着物)の汗をかくような人に夏の絹物は向かない。
こんな状態では、一度着れば丸洗いに出さなければならないだろうし、それでは手入れのために懐が追いつかないことになってしまう。
だから、夏場の長着だけは絹物を持たず、自分で手入れができる木綿か麻で済まし、これに絹物の羽織や袴を組み合わせて、夏の略礼装としている。

現在麻は礼装・略礼装に向かないとされているが、以前は麻の黒紋付など夏の礼装としても用いられていた。
夏の礼装が全て絹物になってしまったのは、柔らかモノの織物を好む茶道文化の影響かと推測してみるが、どうだろうか。
時代の流れとはいえ、少し残念な気がする。

     

6月の単衣の時期の装い         単衣の塩沢紬の着物と羽織

 6月の単衣の時期の装い               単衣の塩沢紬の着物と羽織
黒の絽の羽織に単衣の絣の着物                墨色の馬乗り袴    

著者プロフィール

白鳥博康(しらとり ひろやす) 東京都出身

365日着物で暮らす物書き。
著書に『夏の日』(銀の鈴社)『ゴムの木とクジラ』(銀の鈴社)。
服飾に関する共著に『演歌の明治ン大正テキヤ フレーズ名人・添田唖蝉坊作品と社会』(社会評論社)がある。



オフィシャルサイト 天球儀
http://kujiratokani.web.fc2.com/




ご来店予約・お問い合わせ